抹茶バブルで宇治茶が高騰。宇治田原の茶農家はいま

宇治(山城)の茶畑
山城(宇治)の茶畑(明治時代)/ 出典: Wikimedia Commons (パブリックドメイン)

【結論を先に】世界的な抹茶ブームを背景に、宇治茶の原料となる「てん茶」の価格が急騰しています。2026年の一番茶では増産にもかかわらず単価が前年比20%超上昇。京都の名店が「宇治茶」の看板を外し、回転寿司店の無料茶が1.5倍になるなど、影響は消費者の日常にも及んでいます。日本緑茶発祥の地・宇治田原から、いまの茶業の現場をレポートします。

数字で見る「抹茶バブル」──2026年一番茶の衝撃

2026年の一番茶(京都・全農京都茶市場)の取引データは、産地に大きな変化をもたらしています。

品目取引数量前年比単価(円/kg)前年比
宇治てん茶(手摘み)9,130 kg+48.7%52,086+20.2%
初茶てん茶(機械摘み)541,771 kg+24.7%17,797+22.4%
玉露23,897 kg▲19.7%--
かぶせ茶煎茶・かぶせ計 89,560 kg▲15%前後--

注目すべきは、てん茶が約25〜49%増産されているにもかかわらず、単価が20%超も上がっているという事実です。供給を増やしても世界需要の伸びが上回り、価格を押し上げ続けているのです。

一方、玉露・かぶせ茶・煎茶はいずれも取引数量が2ケタ減。茶農家がてん茶(抹茶の原料)に転換したぶんだけ、他品種の生産が減っています。

なぜ世界が抹茶を求めるのか

需要爆発の震源地はアメリカと欧州です。スターバックスやダンキン、MatchaBarなどの大手カフェチェーンが「抹茶ラテ」をメニューに定着させ、業務用抹茶粉末の需要が急拡大。日本の緑茶輸出額は2025年に721億円を記録し、前年の約2倍、10年前に比べると約30倍に達しました。欧州では「オーガニック」「ビーガン」トレンドとの相性の良さからプレミアム食品素材として定着しています。

農林水産省は2025年4月、「茶業及びお茶の文化の振興に関する基本方針」を改定し、茶業の主軸を国内消費から輸出へと転換。てん茶・有機栽培茶の生産拡大を国策として後押しする方針を打ち出しました。

世界の抹茶関連市場は2019年時点で約24億5,000万米ドル(約3,700億円)と推計されており、2027年には約44億8,000万米ドル(約6,700億円)に達するとも予測されています。

宇治田原はどうなっているのか──日本緑茶発祥の地の今

永谷宗円が1738年に煎茶の製法を確立した日本緑茶発祥の地・宇治田原町でも、産地の景色が変わりつつあります。

てん茶の栽培には「覆下(おおいした)」と呼ばれる遮光シートで茶畑を覆う必要があります。従来は煎茶や玉露中心だった農家も、抹茶需要を受けて転換を検討・実施するケースが増えています。てん茶に転換した農家の中には「年収が2倍近くになった」という声もある一方で、碾茶機(てん茶加工機)の導入には数千万円規模の設備投資が必要です。

宇治田原を含む京都南部の茶産地では、抹茶の原料確保のため隣接する京都府南山城村・和束町でも覆下栽培が急速に広がっており、かつては一面緑だった茶畑が黒・シルバーのシートで覆われる風景が日常になりつつあります。

身近なところへの影響──「宇治茶」の看板が消えた日

祇園辻利が「宇治茶」ロゴを外した理由

京都のお茶の老舗「祇園辻利」は2025年、長年にわたって使用してきた「宇治茶」のロゴを商品から外しました。価格高騰により京都以外産の茶葉の割合が増え、宇治茶の定義に完全には当てはまらなくなったためです。同社専務取締役は「高くなったお茶を同じ品質で、それなりの価格でお届けできるかを考えた結果」と説明しています。

ブランドと品質を守るための苦渋の決断ですが、宇治茶という名称が持つ価値の重さを改めて浮き彫りにしました。

回転寿司の「無料のお茶」が1.5倍に

影響は飲食店にも広がっています。関西の回転寿司チェーンでは、客に無料で提供してきたお茶の仕入れ価格が「4〜5年前に比べて1.5倍ほど」(ある店舗の副店長)に上昇。コスト管理の観点から、無料提供の継続が経営課題になってきています。

ペットボトル茶も値上がりラッシュ

ペットボトル茶を支えてきた「秋冬番茶」の市場価格が前年比約6倍に急騰。「伊右衛門」が2025年10月に180円から200円に値上げしたのに続き、「おーいお茶」「綾鷹」も2026年春に相次いで値上げを発表しました。あるペットボトル飲料メーカーの役員は「過去数十年を見ても異常な価格」と語っています。

「バブル」はいつまで続くのか

お茶の専門家(横浜県立大学・中村順行教授)は「少なくとも来年あたりまでは抹茶ブームの影響が尾を引く」と指摘します。てん茶加工機は一台数千万円の投資であるため、一度導入した農家はしばらく継続生産を続けざるを得ず、生産体制が簡単に元に戻ることはないからです。

一方で、日本の抹茶生産量には限界があります。宇治手摘み抹茶は2025年産が前年比約40%減と不作になるなど、天候リスクも高い。世界需要が年率10%前後で伸び続ける中、国内供給が追いつかなければ、海外産の代替品や品質の妥協という選択が迫られることになります。

宇治田原の茶農家にとってのチャンスと課題

「抹茶バブル」は宇治田原の茶農家にとってチャンスの側面もあります。てん茶に転換できた農家は収益が改善し、海外からの大口注文も届いています。しかし、設備投資の負担、高齢化・後継者不足、既存の取引先との関係維持、そして「宇治茶」ブランドの維持という複数の課題が同時にのしかかっています。

日本緑茶発祥の地として、宇治田原は「量」と「品質」のどちらを軸に据えるかという難しい選択を迫られています。「宇治田原つーしん」では、地元茶農家の声を引き続き取材していきます。

まとめ

  • 2026年一番茶:てん茶は約25〜49%増産でも単価は20%超上昇──需要が供給を上回っている
  • 需要の震源地はアメリカ・欧州。日本の緑茶輸出額は2025年に721億円(前年比2倍)
  • 祇園辻利が「宇治茶」ロゴを撤去、回転寿司の無料茶が1.5倍、ペットボトル茶も値上げと消費者への影響が拡大
  • 宇治田原の茶農家はてん茶転換のチャンスと設備投資・ブランド維持の課題を同時に抱えている

参考:京都府茶業会議所・全農京都茶市場データ(2026年一番茶)、関西テレビ「newsランナー」(2026年1月26日放送)、ジェトロビジネス短信(2025年10月)、農林水産省「茶業及びお茶の文化の振興に関する基本方針」(2025年4月)、うおがし銘茶(2026年新茶価格案内)

WRITER

UJITAWARA-TSUSHIN

宇治田原町の変化を、現地確認と一次情報を大切にしてお届けします。